高血圧をもたらす要因
厚生労働省の調査によると、40歳以上の2人に1人が高血圧※と推計されています1)。
高血圧は、以前から日本人の“国民病”とも呼ばれており、よく知られた病気ですが、そもそも血圧とは何なのでしょうか?
また、血圧はなぜ高くなるのでしょうか?
※収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上、もしくは血圧を下げる薬を服用している者
大阪大学大学院医学系研究科
臨床遺伝子治療学 特任准教授
血圧とは何なのでしょうか?
血圧とは、「血液が血管の壁に加える圧力」のことで、心臓が送り出す血液の量(心拍出量)と血管の太さや弾力性(末梢血管抵抗)によって決まります。
心拍出量には、心臓の収縮力、心拍数、血管を流れる血液量(循環血液量)が関係し、循環血液量はさらに体内の水分量(体液量)に左右されます。
一方、末梢血管抵抗は血管の収縮や弾力性の低下によって強まり、血管の拡張や弾力性があると弱まります。
心拍出量と末梢血管抵抗と血圧の関係は、ポンプとホースに例えることができます。ポンプが押し出す水の量が多かったり(心拍出量の増加)、ホースの先をすぼめたりする(末梢血管抵抗の増加)と、ホースにかかる水圧が大きくなる、つまり血圧が高くなるのです。
全身に十分な酸素や栄養を届けるには、ある程度の血圧が必要ですが、血圧の高い状態が長く続くと心臓や血管に負担がかかってしまいます。
血圧はどのように調節
されているのですか?
血圧というのは一定に保たれているわけではなく、常に変動しています。例えば、体を動かしているときや頭を働かせているときは高くなり、安静時や睡眠中は低くなります。また、高齢になって血管が硬くなる(ホースが硬くなる)と変動の幅(血圧の上下)も大きくなります。
このような血圧の変動や調節には、様々な物質や体の機能が関係2)しています(図)。
その1つとして多くの人がご存じなのは、食塩(ナトリウム)でしょう。ナトリウムは水を引き寄せる性質があり、摂取すると体液量が増えます。一方、腎臓にはナトリウムを排泄する働きがあるので、この機能によって体液量と血中のナトリウム値は一定に保たれています。
また、緊張すると血圧が上がるように、神経も血圧の調節に関与しています。自律神経の1つである交感神経は、心臓を強く、速く動かすとともに血管を収縮させ、心臓と血管の両面から血圧を高める方向に働きます。
さらに血圧の調節に重要な働きをしているのが「レニン・アンジオテンシン(RA)系」と呼ばれる体の機能です。レニンは腎臓から分泌される物質で、血管を収縮させる作用をもつアンジオテンシンⅡというホルモンを作ります。
このほか、血管の収縮・拡張に働く様々な体内物質(血管作動性物質)や、血管の壁にある筋肉(血管平滑筋)の状態も血圧に影響を及ぼします。
こうした血圧を調節する因子に遺伝素因や生活習慣の乱れなどが加わり、これらの働きが「血圧を高める方向」にシフトすると高血圧が起こります。
高血圧には、原因が特定できるもの(二次性高血圧)もありますが、大部分は原因が特定できず、「本態性高血圧」と呼ばれています。本態性高血圧は“原因が特定できない”というより、むしろ上に述べた“血圧を調節する因子が複雑に絡みあっている状態”と言ったほうがよいでしょう。
日本高血圧学会編. 高血圧診療ステップアップ-高血圧治療ガイドラインを極める-, 2019, p.9より改変
日本高血圧学会編. 高血圧診療ステップアップ
-高血圧治療ガイドラインを極める-, 2019, p.9より改変
血圧を調節する因子は、
高血圧の治療にも
関係しますか?
もちろん、関係しています。患者さんの血圧を高めている要因にアプローチし、血圧を下げる方向に是正するのが高血圧の治療です。
したがって、治療の基本は食事、運動など生活習慣の改善です。減塩は体液量の増加を防ぎますし、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルを多く含む野菜や果物などは塩分の排泄を促します。また、適度な強度の運動は交感神経の過剰な活動を抑えるほか、血管の拡張や塩分の排泄を促すなどのメリットがあります。
生活習慣の改善を行っても十分な血圧低下がみられない場合は、血圧を下げる薬剤(降圧薬)による治療を行います。
降圧薬は血圧を調節する因子に働きかけて効果をあらわしますが、その種類によって作用、すなわち「働きかける因子」が異なります。それが患者さんの血圧を高めている要因と上手く合っていれば血圧が下がります。しかし、先ほど述べたとおり、本態性高血圧は“多くの要因が複雑に絡みあっている”ので、1つの薬剤では抑えられない要因が出てきてしまいます。これはモグラたたきに似たところがあります。1つの要因(モグラ)をたたいても、他の要因は顔を出したまま。これでは思うように血圧が下がりません。そのため、作用の異なる薬剤を2剤、3剤と組み合わせて治療せざるを得ないことが多いのが実情です。