教えて、先生!

食塩と高血圧

食塩の摂りすぎが高血圧の原因になることはよく知られており、
高血圧の予防と治療には、食事の塩分を減らすことが大切です。
食塩と血圧の関係、日本の食文化と食塩、減塩のコツなどについて、
日本高血圧学会「減塩・栄養委員会」の委員長を務めておられる、三浦克之先生にお話を伺いました。

教えてくださるのは
滋賀医科大学NCD疫学研究センター 教授
三浦 克之先生
滋賀医科大学NCD疫学研究センター 教授 三浦 克之 先生

食塩の摂りすぎは、
なぜ高血圧の原因に
なるのでしょうか?

食塩の主成分である「ナトリウム」は、生きていくうえで必要な成分です。しかし、血液中にたくさん増えると、これを薄めようとする力(浸透圧)が働いて、水分が血液中に入り、血液の量が増えます。
血圧は血液の流れが血管の壁に加える圧力なので、血液の量が増えると血圧が上がります。通常、余分なナトリウムは腎臓から排泄されますが、増えすぎると排泄が追いつかなくなり、高血圧になると考えられています。

食塩の摂取によって、血圧が上がりやすい人と上がりにくい人がいますが、これは腎臓から排泄されやすいかどうかが関係していると考えられます。私は、文明化した人類は全体として食塩を摂りすぎており、人類全体の血圧も高すぎる状態だと考えていますが、実際、食塩摂取量が非常に少ない地域では高血圧の人はほとんどいないこと1)が知られています。

日本人は食塩摂取量が
多いといわれていますが、
どうなんでしょうか?

20歳以上の成人を対象とした厚生労働省の調査2)によると、日本人の1日の食塩摂取量の平均値は10.1gとされています。ここ数十年の間に減ってきたものの、世界の中では依然として食塩摂取の多い国です。これには日本の伝統的な食文化、しょうゆ、みそ、漬物、塩蔵魚など、塩分の多い食品を多く摂る習慣が影響しています。

私たちは以前、日本、中国、英国、米国の4ヵ国共同で食塩の摂取源を調べたことがあります。この研究3)では、1日の食塩摂取量は中国が最多で、日本が2番目でした。また、その摂取源は英米ではパンや肉類が多かったのですが、日本は1位がしょうゆ(20%)、次いで漬物類(10%)、みそ汁(10%)、調味料としての食塩(9%)、魚(9%)でした。さらに調味料と加工食品に分けて見てみると、それぞれ約40%ずつという結果になりました(図)。
調味料は量を調節することができますが、漬物や干物などの加工食品は塩分の調節が難しいです。伝統的な食品に加え、塩分の多い加工食品の増加が食塩摂取量の増加につながっていると考えられています。

図 日本人の食塩の摂取源
日本人の食塩の摂取源

40~59歳の男女計1,145人を対象に、1996~98年にかけて調査した。

Anderson CAM, et al. J Am Diet Assoc 2010; 110: 736-45より改変、作図

図 日本人の食塩の摂取源
日本人の食塩の摂取源

40~59歳の男女計1,145人を対象に、
1996~98年にかけて調査した。

Anderson CAM, et al. J Am Diet Assoc 2010; 110: 736-45より改変、作図

高血圧の治療や
予防には、
どの程度の
食塩制限が必要なの
でしょうか?

日本高血圧学会では、高血圧の人の食塩制限(減塩)の目標として「1日6g未満」を推奨しています。一般の人でも減塩は高血圧の予防に重要で、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』4)では、男性で1日7.5g、女性で6.5g未満を目標としています。
とはいえ、「1日6g未満」と言われても、これが多いのか少ないのかイメージしにくいかもしれません。例えば東北地方の人は、数十年前まで1日約25gも摂っていました5)。先ほどお話したとおり、現在の日本人の平均摂取量は1日約10gですから、ほぼ半減しています。ですから、食塩が少なくてもおいしいと思えるような味覚の変化は、塩分が多いものを食べてきた私たち日本人にも可能だと思います。
ちなみに外国と比べてみると、一般の人の場合はWHO(世界保健機関)で1日5g未満6)、高血圧の人の場合は米国で1日3.8g未満7)という目標が立てられていて、日本の目標量は世界的にみると多いことがわかります。

無理なく減塩できる、
減塩のコツがあれば
教えてください

減塩のコツとしては、①新鮮な食材を使う、②香辛料、香味野菜や果物の酸味を利用する、③低塩の調味料を使う、④みそ汁は具だくさんに、⑤外食や加工食品を控える、⑥漬物は控える、⑦むやみに調味料を使わない、⑧麺類の汁は残すなどがあげられますが、何よりも「薄味に慣れること」が一番のポイントです。
また、塩味以外にもうま味や酸味など、いろいろな“おいしい味”があるので、そうした味を楽しみながら薄味に慣れていくのがよいと思います。そのためには個人の心がけとともに、社会全体で減塩を進めることが必要で、誰もが薄味をおいしいと感じるように、集団としての味覚を変えていくことが大切でしょう。

先生が委員長を
されている
日本高血圧学会の
減塩・栄養委員会では、
どのような活動を
されているのですか?

当委員会では、様々な側面から減塩を図る活動を行っています。
例えば、食品のパッケージの栄養成分表示について、従来は「ナトリウム」の量が記されていましたが、これを「食塩相当量」とするように働きかけました。現在では食塩相当量で表示されているので、減塩を心がけている方にとって食品選びの参考になると思います。また、減塩食品を紹介したり、アワードを創設して減塩化の推進に優れた成果をあげた食品を表彰しています。

昨年からは厚生労働省の事業として、町ぐるみ、職場ぐるみの減塩の手法を作り、その効果を実証する事業を始めました。これは尿検査で食事の内容を評価し、塩分の摂りすぎなどがあれば、食事を改善するプログラムを実行してもらい、実際に食事が改善されたかどうかを確かめるものです。
尿検査による食塩摂取量の推定に加えて、尿のナトリウムとカリウムの比も算出します。カリウムは野菜や果物に多く含まれ、ナトリウムの排泄を促す作用がありますから、この比が高いと、塩分の摂りすぎまたはカリウム不足の目安になります。結果が出るのは2年後ですが、よい結果が得られることを期待しています。

【参考】さあ、減塩!~減塩・栄養委員会から一般のみなさまへ~(日本高血圧学会)
https://www.jpnsh.jp/general_salt.html

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