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超高齢社会の
日本だからこそ大切な、
高血圧への
取り組み方を知ろう

超高齢社会の日本。
血圧は年齢とともに高くなることがわかっており、
高齢者の6〜7割が高血圧であるといわれています1)
一方、寿命が延びるということは、若い時から血圧の高い方では、より長く高血圧と付き合っていくことになるでしょう。
今回、川崎医科大学 特任教授で日本腎臓病協会 理事長の柏原直樹先生に、
超高齢社会の日本だからこそ大切な、高血圧との取り組み方についてお話を伺いました。

教えてくださるのは
川崎医科大学 特任教授
日本腎臓病協会 理事長
柏原 直樹先生
川崎医科大学 腎臓・高血圧内科学 教授 柏原 直樹 先生

血圧を管理することは、健康寿命を長く保つことにつながる

超高齢社会の日本でこそ、高血圧に取り組む意味を教えてください

超高齢化を達成できたということは、本来、喜ぶべきことです。人間は長く長寿を求めて医療や福祉に取り組んできました。日本は世界に先駆けて長寿社会を実現することに成功したのです。しかし同時に、私たち日本人は別の大きな問題に直面することになりました。
いわゆる“生物としての寿命”と“健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)”の間に10年前後の差ができてしまったのです2)。これは、せっかく長生きしても、晩年の約10年間を障害をかかえたり、「寝たきり」に近い状態で過ごす方が少なくないことを意味します。そのような状態は本人もつらく、家族や周囲の方にも負担が大きいことでしょう。
この差が生じる主な原因は、脳卒中や認知症のほか、加齢に伴うフレイル**や、サルコペニア***による転倒・骨折などですが3)、これらはいずれも高血圧と関係があると考えられます4)。つまり、血圧を管理することは、健康寿命を長く保つことにつながるといえるでしょう。
高血圧の影響は10年、20年のスパンで長年にわたり蓄積されていくものです。そこで、若いうちから「単なる長生きではなく、“健康に”長生きをするために、今の血圧をしっかり管理する」という意識をもっていただくことがとても大切だと思います。

  • *超高齢社会:高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)が21%を超えた社会
  • **フレイル:加齢により心身が老い衰えた状態
  • ***サルコペニア:加齢や疾患により,筋肉量が減少すること

高血圧は、心腎連関に関わる病気の発症や進展を加速させる可能性がある

血圧が高いままだと、特にどのようなことが問題になるのでしょうか

高血圧は、血管にかかる圧が高まっている状態です。血管は柔軟性に富んでおり、短期間では問題は生じません。しかし、長年にわたり血管が高い圧にさらされることで、柔軟性が損なわれ、動脈硬化を起こしたり、心臓、腎臓などの重要な臓器の機能を徐々に低下させます。脳卒中や心筋梗塞などの生命に関わる、あるいは先ほどお話しした健康寿命を損ねる疾患を起こすリスクが高まります。このような悪影響は、一般には高血圧である期間が長いほど起こりやすくなります5)
もともと人間の体は、85年や90年という寿命を想定していなかったと思われます。個体の寿命と個々の臓器の寿命は、必ずしも一致しません。加齢に伴って臓器の老化(機能の低下)が起こりますが、それが進めば脳では認知症、心臓では心不全、腎臓では慢性腎臓病(CKD)といった病気を起こします。それらの病気は1つだけが起こるのではなく、いくつも重なって起こることが多いのです。
特に合併しやすいのはCKDと心不全です。腎臓が悪いと心不全を起こしやすくなり、心不全があると腎臓の状態をさらに悪化させます。これを「心腎連関」といいます6)。高血圧はこのような心腎連関の発症や進展を加速させる可能性があります。

腎臓は、血圧調節において重要な臓器の1つです。血圧を上昇させる食塩を体外に排泄させる働きをもち、血圧調節に重要なホルモンの産生にも関わっています。そのため、腎臓が悪くなると血圧調節が乱れ、血圧が上昇しやすくなります。CKDは「eGFR(推定糸球体濾過率)が60mL/分/1.73m2未満(腎機能の低下)」あるいは「一定量(0.15g/gCr以上)の蛋白尿が出ている」のいずれかまたは両方が、3ヵ月以上続いた場合とされています7)。歳をとるだけでもeGFRが低下してCKDになりやすく、心不全にもなりやすいのです。高血圧の治療を行う際には、このことを念頭に置いておかなくてはなりません。

高血圧治療は、それぞれの患者さんの“益と害のバランス”を考えて行われている-高齢者ほど個別化医療が必要

日頃、先生方はどのようなことを考えて、高血圧治療を行っているのですか

私たち医療者が薬物療法を行う際には、常に、それぞれの患者さんにとっての“益と害のバランス”を考えながら治療を進めています。薬剤には、皆さんもご存知のように、有用な効果だけでなく必ず副作用があります。そこで診療ガイドラインなどに基づきながらも、それぞれの患者さんの状態に合わせて、「益(効果)を最大にしつつ害(副作用)をできるだけ避けるためにはどのような治療がよいか」を考え、薬剤の選択や用量を決定します。

特に高齢の患者さんでは、先ほどお話ししたように、健康にみえても臓器の老化が起こっています。その程度は、一様ではなくひと様々です。より安全性を重視し、高い血圧をどこまでどのように下げていくかを考えなくてはなりません。
さらに気をつけるべきは、患者さんごとの違い(多様性)です。若い人ほど多様性が大きいと思われがちですが、実は生物学的にはそれほど大きな幅はなく、むしろ高齢者のほうが、同じ年齢であっても老化の程度は様々であり、多様性があります。そこで、高齢になるほど、患者さんごとのきめ細かな対応、つまり個別化医療が必要になるのです。
降圧薬のタイプによっても、それぞれの臓器に与える影響は少しずつ違います。そのため、例えばCKDのある患者さんでは、その薬剤が腎臓に与える影響を考慮して、使うべき薬を選択するようにしています。

かかりつけ医を持って、自分をよく知ってもらうことが大切

高血圧患者さんやその予備軍の方々へ、アドバイスをお願いします

先ほど、高齢者ほど個別化医療が大切だとお話ししましたが、それぞれの患者さんにあった治療をみつけるには、医療者はその患者さんの血圧だけでなく、全身の状態や生活習慣、価値観や性格、お仕事や家庭環境なども知らなくてはなりません。ぜひ皆さんにはかかりつけ医を持っていただき、先生に自分のことをよく知ってもらうようにしてください。
また、高齢者でなくても、健康寿命という“将来”への影響も考えて継続的に治療を受けるには、やはりかかりつけ医に“今”の自分をよく知っておいてもらうことが大切です。このことは、高血圧だけでなく、さまざまな病気の予防や治療にも重要であり、健康寿命を伸ばすことにもつながるはずです。

ぜひ、あなたのほうから先生に、高血圧に関するご心配、日常生活の様子や服薬の状況などを積極的にお話ししてみてください。患者さんと医師が一緒に取り組むことが、あなたに最も適した治療法を探し当てる、つまり個別化医療を達成するために大いに役立ちます。
その際、腎臓の状態は、あなたの高血圧をどう治療していったら良いかを知る鍵の1つになります。ご自身のeGFRや検尿検査、蛋白尿の検査値に注目してみてください。

「健康に長生きをする」という未来を描きながら、今の自分の高血圧に向き合ってほしい

最後に、超高齢社会の日本でこそ大切な、高血圧への取り組み方について、
先生のお考えを伺わせてください

高齢者では、たとえ健康であると思えても、潜在的に全身の臓器の老化は起こっています。個々の臓器の老化は、互いに影響を与え合いながら、それぞれに機能低下が進んでいきます。超高齢社会の日本では、そのような状態にある人がたくさんいるということになります。そこにさらに高血圧が加わることで、加齢による機能低下が加速されます。臓器障害が起こるリスクが生じ、高血圧のダメージは長年にわたり蓄積されていきます。ですから、高血圧はそれがわかった時から、将来の健康寿命延伸を目標に定めて、しっかりと管理することが大切なのです。
そして、高血圧の薬物療法には、“益と害のバランス”の視点が重要です。そのために、ぜひかかりつけ医を持ってください。医師が自分にあった治療選択ができるよう、自分をよく知ってもらいながら、一緒に治療を進めていただきたいと思います。これは高齢の患者さんだけではなく、将来の高齢患者、つまり中年期の高血圧患者さんであっても同じです。「健康に長生きをする」という未来を描きながら、今の自分の高血圧に向き合っていってください。

さらには、ご家族や周囲の方にも、患者さんと一緒に高血圧に取り組んでいただきたいですね。高血圧は生活習慣が大きな影響を与える病気ですが、減塩や体重の適正化などは患者さん一人ではなかなか達成が難しく、周囲のサポートが必要となります。ぜひ、長く高血圧と付き合っていく患者さんに寄り添い、長くサポートしてあげていただきたいと思います。

  • 1)
    日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 編. 高血圧治療ガイドライン2019, p.8より改変
  • 2)
    厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会・次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会. 健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料. p.25 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
  • 3)
    厚生労働省. 2019年国民生活基礎調査.
  • 4)
    Sarcopenia prevalence and associated factors among older Chinese population: Findings from the China Health and Retirement Longitudinal Study. PLoS ONE. 2021; 16(3): e0247617.
  • 5)
    Petrea RE, et al. Mid to late life hypertension trends and cerebral small vessel disease in the Framingham heart study. Hypertension. 2020; 76(3): 707-714
  • 6)
    日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2012. p.12
  • 7)
    日本腎臓学会編. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018. p.2
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